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僕は再び走り始めた。途中でタクシーを拾い、隣町へ向かう。タクシーから降りると、受付へと走り、そして705と書かれた部屋へ急いだ。
彼女が僕に伝えたのは隣町の総合病院の名前だった。
はやる気持ちを抑え、ノックをし、扉を開けると、窓の外を眺めている女性の後ろ姿があった。
「雪は地に落ちて消えることができず、泥と混ざり醜く姿を変え残ってしまったわ」
彼女ーー笠原雫が振り向くと同時に僕は彼女を抱きしめていた。
「君は雪じゃない。醜くもない。こんなにも美しい」
「……バカじゃないの。恥ずかしげもなくよくそんなことを言えるわ」
「君はここに居る。笠原雫は生きている。生きている……っ」
温かいものが頬を伝う。
「バカね。あなたが泣いてるなんて、意味がわからない」
そう言って彼女は僕の頬の涙に触れ、笑顔を見せた。
僕がずっと見たかった彼女の笑顔。
やはり思った通りだ。彼女の笑顔は春の日差しのように暖かい。
「長い長い夢を見た。そこであなたにも出会った。1つだけ訂正してあげる」
僕は抱きしめている手を強め、彼女の口を塞いだ。そして、
「僕の好意に応えることはないってことだろ?」
「……バカじゃないの」
顔から耳まで赤らめ俯いた彼女が否定をすることはなかった。
「まずは、あなたの名前を知りたいわ。そしたら一緒にアイスクリームを食べましょう」
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