悪魔が生まれた午前九時

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 その悪魔は東京とは名ばかりの山間の村、僕の祖父の家で生まれた。高校受験を控えた僕が正月返上で受験勉強をしていたコタツの中でだ。  その日祖父母と両親は親戚への挨拶で朝早く出掛けていき、そういうのが煩わしかった僕は勉強をしているのならという条件付きで一人留守番をすることを許された。本当はここに帰省することも面倒だったが、中学生だった僕の貴重な収入源であるお年玉の回収のためだったので仕方がない。  テレビはついていたが音は消していた。問題集に取りかかる前にちらりと画面を見ると箱根駅伝が流れていて、僕の目指す大学がトップを走っていた。  ふいに感じた足の裏の感触を僕は今でも覚えている。両生類の皮膚のようなぬるぬるとしたものが突然足の下に現れ、僕は悲鳴を上げながらコタツから足を引き抜いた。膝が天板に当たり問題集とペットボトルのお茶が飛び跳ねる。  気のせいではない証拠に履いていたスウェットの裾が濡れていた。何かがあるのは確実だが、すぐに布団を捲って中を確認する勇気は出なかった。廊下へ出る襖に手をかけながら気を落ち着かせるためにお茶を一口飲んだ。  コタツからは一度も目を離していない。何者かはまだコタツの中にいる。隣の部屋に野球のバットがあることを思い出した僕はなるべくコタツを視界に入れたまま移動し、金属バットをぎゅっと握った。目一杯腕を伸ばし、バットの先で布団を捲る。  ヒーターで赤く照らされたコタツの中を体を捻って覗き込む。初見でなにも見つけられなかった僕は少し大胆になり、布団の一辺を天板に掛け、角度を変えて中の様子を探る。すると僕の座っていた場所の右側の足に悪魔を見つけた。
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