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もちろんその時まで悪魔なんて見たことがなかったし、存在するとさえ思っていなかった。それでも僕がそれを見た途端に悪魔と認識したのは、その姿がおよそこの世の物とは思えないほどに醜かったからだ。
林檎くらいの大きさでヌメヌメとした黒い皮膚。手足の他に背中に小さな突起があり、それが後々羽根になるのだろうと想像させた。目はまだ開いておらず、口から出るよだれで絨毯が変色していた。動きは鈍く、家族の帰りを待つことなく今なら簡単に殺せる気がした。
運動は得意な方ではなかったが、ほとんど動かない標的にバットを振り下ろすだけだ。ぎゅっと目を閉じる。この悪魔を退治して世界を救う、そんな正義感に支配された僕はためらうことなく悪魔を叩き潰した。
手応えはあった。夏に海行った時にしたスイカ割りのような。恐る恐る目を開けるとそこに悪魔の姿はなかった。周囲を見回しても見当たらない。バットを構えつつもう一度コタツの中を覗き込むが悪魔どころかそのよだれ跡さえも消えていた。
夢でも見ていたのだろうか? そう思いながら再び問題集を開いたが、もうコタツに足を入れることもバットを片付けることも出来なかった。
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