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「心配することはない。確かに夢の中ではそうかも知れないが、目が覚めたらみんないつも通りじゃないか。夢は、あくまで夢だ。優璃のお友達は、誰も傷ついてはいない」
「でも! ゆり、知ってるんだよ。まさゆめ、っていうのがあるんでしょ? もしかしたら、いつか本当にみんな死んじゃうかも知れないんだよ!? やだよ、そんなのやだぁ!」
例え今が夢でしかなくとも、それが現実にならない保証はない。そんな不安が鎌首をもたげるたび、彼女はこうして泣き?るようになっていた。
大切な友達が、夢の世界でいがみ合い、傷付け合う。そんな夢を頻繁に見てしまったことが、幼い心を焦燥と恐怖へと駆り立てていたのだ。
「……仕方ないな。眠れないなら、絵本を読んであげよう」
「ぅっ……ぐずっ……」
「きっと、優璃に元気をくれる。素敵なお話が、あるんだ」
そんな愛娘の姿を、痛ましい表情で暫し見つめ――父は傍らの袋から、一冊の絵本を抜き出して来た。今日買ったばかりの、新作である。
今まで読んだことのない本が目に入り、暗く淀み始めていた娘の瞳は、微かな光を取り戻す。
「きっとこのお話を読めば、悪夢なんて怖くなくなるさ。このお話の勇者様が、きっと優璃を助けてくれる」
「勇者、様? 本当?」
「あぁ、本当だとも。この話はな――」
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