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気がつくと、見知らぬ天井の下。
見知らぬ女性が近くに居た。
「お母さん、気づきましたか?」
私は周りを見渡した。
「空は?」
看護士さんは、にっこりと微笑んだ。
「空くんは、大丈夫ですよ。
今は旦那さんが付き添われて、別室で寝てます。
お母さん、ちゃんと休んでますか?」
私が何も返せずにいると看護士さんは質問を変えた。
「何か不安なことはありますか?」
私一人で空の命を守れるか不安で仕方がない。
私は泣きながら、弟の話をした。
夜も、昼も、空から目を離すことが不安で夜は眠れないし、昼は家事も昼寝も思うように出来ない。
看護士さんは、時より頷きながら私の話を最後まで聞いてくれた。
「分かるよ。
でもねぇ、そんなこと考えていたら気持ちも身体もたないよ。
子育ても出来ない。」
看護士さんの言葉が胸に突き刺さった。
看護士さんは続けた。
「この話はあまり人に話さないんだけどね、私の姉の子供が、乳幼児突然死症候群で亡くなってるんだ。」
看護士さんのお姉さんも医療従事者で、乳幼児突然死症候群については、よく知っていた。
夫婦共に煙草は吸わない。
添い乳は勿論、添い寝も避け、赤ちゃんはいつもベビーベッドに寝かせていた。
赤ちゃんが寝返りを打つ前は、仰向けで寝かせていた。
赤ちゃんが寝返りを打つようになると、うつ伏せ寝を好むようになり、気づくといつも仰向けに戻していたという。
それでも、赤ちゃんは亡くなった。
「お母さんはね、母性があるから、どんな寝方をしても、案外、赤ちゃんを危険な目には合わせないものだよ。
弟さんも、原因は他にあったのかも知れないよ。
この先、赤ちゃんが成長するとまた違う危険が出てくるし、一々、起きてもいない不安に囚われて子育てしていたら、心も身体も持たないよ。
お母さんが不安だと、赤ちゃんも安心できないよ。
どうしても不安なら、頼りになる旦那さんがいるんだから、頼ってみたら?」
看護士さんに連れられて、空と旦那のいる部屋に入った。
少しして、空が起きて、授乳をはじめると、看護士さんは旦那に声をかけて、旦那と二人外に出た。
車のエンジンを掛けながら、旦那は言った。
「今日から3人で一緒に寝よう。」
ぐっすり眠る空をチャイルドシートシートに乗せて、車に積もった雪を降ろす旦那の姿を見つめていると、心が少しづつ晴れていくのを感じた。
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