不安な夜

5/6
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
気がつくと、見知らぬ天井の下。 見知らぬ女性が近くに居た。 「お母さん、気づきましたか?」 私は周りを見渡した。 「空は?」 看護士さんは、にっこりと微笑んだ。 「空くんは、大丈夫ですよ。 今は旦那さんが付き添われて、別室で寝てます。 お母さん、ちゃんと休んでますか?」 私が何も返せずにいると看護士さんは質問を変えた。 「何か不安なことはありますか?」 私一人で空の命を守れるか不安で仕方がない。 私は泣きながら、弟の話をした。 夜も、昼も、空から目を離すことが不安で夜は眠れないし、昼は家事も昼寝も思うように出来ない。 看護士さんは、時より頷きながら私の話を最後まで聞いてくれた。 「分かるよ。 でもねぇ、そんなこと考えていたら気持ちも身体もたないよ。 子育ても出来ない。」 看護士さんの言葉が胸に突き刺さった。 看護士さんは続けた。 「この話はあまり人に話さないんだけどね、私の姉の子供が、乳幼児突然死症候群で亡くなってるんだ。」 看護士さんのお姉さんも医療従事者で、乳幼児突然死症候群については、よく知っていた。 夫婦共に煙草は吸わない。 添い乳は勿論、添い寝も避け、赤ちゃんはいつもベビーベッドに寝かせていた。 赤ちゃんが寝返りを打つ前は、仰向けで寝かせていた。 赤ちゃんが寝返りを打つようになると、うつ伏せ寝を好むようになり、気づくといつも仰向けに戻していたという。 それでも、赤ちゃんは亡くなった。 「お母さんはね、母性があるから、どんな寝方をしても、案外、赤ちゃんを危険な目には合わせないものだよ。 弟さんも、原因は他にあったのかも知れないよ。 この先、赤ちゃんが成長するとまた違う危険が出てくるし、一々、起きてもいない不安に囚われて子育てしていたら、心も身体も持たないよ。 お母さんが不安だと、赤ちゃんも安心できないよ。 どうしても不安なら、頼りになる旦那さんがいるんだから、頼ってみたら?」 看護士さんに連れられて、空と旦那のいる部屋に入った。 少しして、空が起きて、授乳をはじめると、看護士さんは旦那に声をかけて、旦那と二人外に出た。 車のエンジンを掛けながら、旦那は言った。 「今日から3人で一緒に寝よう。」 ぐっすり眠る空をチャイルドシートシートに乗せて、車に積もった雪を降ろす旦那の姿を見つめていると、心が少しづつ晴れていくのを感じた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!