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私は木枯らしの舞う住宅街を一人、呆然と歩いている。冷気が剥き出しの肌を刺し、ヒリツクような痛みを感じて顔をすぼめる。太陽はもうすぐで完全に沈むだろう。黄昏れた空は私の心を表しているようだ。
この不景気の中、私は零細企業で働いていた。以前勤めていた会社をクビになり、何社も面接を受けてやっとのこと手に入れた職だった。
今年で40歳になる。本来ならば会社の中心として勢いに乗って若手を引っ張っていくはずであった。しかし、私はゼロからスタートの新人として歩むことになってしまった。
今の給料は前の会社の半分以下、一ヶ月ギリギリの生活をするのでやっとの金額である。寄れたスーツやネクタイが身分相応で失笑が漏れる。
私には養う家族が三人いる。妻の真弓に小学4年生の幸樹、そして年長生の和恵の三名である。
以前勤めていた会社をリストラされ、私たち家族の生活は一変してしまった。住んでいたマンションは家賃を払うことができなくなり、築40年以上の錆びれたアパートへと引っ越した。私よりも古株のアパートだ。家具も必要最低限の物以外は売り払った。
自分の不甲斐なさが情けなく、家に向かって歩く足取りはとても重たくなる。
仕事量は少なく、定時に帰ることができるがそれ故に残業代は全く見込めない。しかし、やっとのことで就職した会社である。これ以上の待遇は求められない。
重たい足を動かしているとアパートもすぐ目の先だ。
玄関の前までたどり着くが、鬱々とした気持ちが扉を開けるのを躊躇させ、前で立ち止まってしまう。
扉の前で巻き込まれた家族の気持ちを考え込んでしまう。どういう顔で家に入ろうか数分思い悩んでいたが、腹をくくり、ドアノブを回した。
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