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「そんなことないよ! お父さんは頑張ってるもん! そりゃ、前の生活のほうが便利
だったけど、今のお仕事だったらお父さんと沢山一緒にいられるもん! お父さんは頑張ってるんだよ!」
幸樹が力強い眼差しで私の顔を見ながら、声高らかに主張する。
「幸樹…お前…」
思いがけない言葉に呆然としてしまう。
「そうですよ、あなたがいてくれるだけでいいんです」
振り返ると、鍋を両手で持っている真弓が慈愛に満ちた瞳を向けてくる。
「パパと一緒がいい!」
何の話かわかっていないであろう和恵も、空気を読んで両手を上げながら笑顔で言った。
「お前ら……」
私は堪えきれなくなった。瞳から一粒の雫が零れた。そして堰を切ったように涙が溢れ出す。頬を幾筋もの涙が、とめどなく伝い落ちる
なんと幸せな父親だろうか。家族から愛されている、これ以上に私が欲しい物はないだろう。何があっても恥じることなく守りぬく、決意を胸に、腕で涙を拭った。
「さぁ、晩御飯にしましょう」
真弓が机の上に鍋を置き、こたつのなかに入る。鍋の蓋を開けると、ふやけた白菜と角の取れた豆腐が揺れている。
――――――我が家のこたつはとても温かい。
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