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 いつものことだが、また一人になってしまった。  するとやはり暇なので、テーブルの上の食事に手を伸ばす。キャビアやら伊勢海老やらフォアグラやらローストビーフやらが彩り良く飾りのように載せられたオードブルを静かに口にしていく。  普段は自炊もしないため弁当を買って自宅で食べている。貧相な食生活なので、こういう豪華な外食をたまに口にすると、消化不良で胃が痛くなることがある。慣れない食材はあまり食べないように気をつけよう、と口当たりの軽そうなものだけ胃に収めた。  そこそこ空腹が満たされると、ウッドデッキのテラス側に出てみる。  目の前が海だ。ナイトクルーズの船の光が水面にキラキラと反射している。ウッドデッキに立ち、手すりに両手を置くと、ぶわっと夜風が吹きつけてきた。  こういった機会でもなければ、こんな洒落た場所に赴くことなんてない。仕事や勉強ばかりの毎日で、通勤や用事以外に外出することさえないのだから。  ふと夜景のカラフルな彩光を見て思い出したのは、子供の時妹が『宝物』と称していたキラキラ光る子供向けのビーズだった。  男の麻木はそれを『綺麗』と言って目を輝かせていた少女心理が理解できずにいた。  綺麗だから何がいいというのか。そう思っていた。  最初は妹も大事にしていたが、いつの間にかビーズの入った宝箱は放置され、蓋を開くことさえなくなっていた。  飽きたのだろう。  見た目が綺麗というだけでは、人は何度も見るうちにその対象への興味を失う。  もし見た目以上に何らかの付加価値があれば話は違うが、そうでなければすぐに飽きられる。  飽きたら、人は簡単に捨てる。
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