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 てのが、父さんの口グセだ。旋盤とは、金属を削ったり穴をあけたりするための工作機械のこと。父さんは旋盤を専門にしている。気持ちよく空想にひたっているときにかぎって、そんなことを言ってくる父さんが、最近はちょっと面倒クサイ。きっとぼくにコウバを継がせる気まんまんなのだ。  ぼくはまだ自分が何になりたいのかなんてよくわからない。小学校の卒業文集には、「小説家になりたい」といちおう書いてみた。本を読むことが好きだし、頭のなかがちょくちょく小旅行に出かけてしまうぼくに、むいている気がしなくもない。父さんに言ってみたって、きっと通じはしないけど。  短く息をついて、机の椅子に座りなおした。  ノートパソコンのディスプレイが、青い光で照明の消えた暗い部屋を照らす。その画面にはくじら座や宇宙のことが表示されていた。昼からずっと気になってしまい家に帰ってからも、クジラについてネットで調べていた。  夕飯もうわの空で、母さんから「恋?」なんてつまらない冗談を言われた。 「そーかも」  と答えてやったら、普段から無口な父さんは、何も言わずに味噌汁を吹き出していた。高校生の姉ちゃんは、男性アイドルのテレビを見るのに忙しくて、ぼくには無関心。いっそうのこと姉ちゃんがコウバを継げばいいのに。  調べてみてわかったこと。口からの出まかせかと思ったら「くじら座」はちゃんと存在していた。もっとも秋の星座らしいので、今、この夜空に見つけることは出来ない。     
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