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『太陽系をはなれて、ずっと遠い宇宙を旅している。太陽系のおとなりさんにたどり着くのに、八万年もかかるんだってよ』
八万年。その数字にぼくは気が遠くなってめまいがした。
『なんのために? そんな遠い未来、ぼくらはもうこの世にいないよ』
『ボイジャー2号って兄弟宇宙船と、ゴールデンレコードを運んでいるんだ』
ゴールデンレコード、その名のとおり金色の円盤。地球の生命や文化を伝える音や画像がそのレコード盤には刻まれているのだと航は言った。いつか宇宙のどこかで、他の誰かが見つけてくれることを願って。簡単にいえば、ぼくたちは地球人です! ていうメッセージだ。
途方もない話に、深く息をついた。
航から送られてきた宇宙船の画像を改めて眺める。長く突き出したアンテナと、太陽からの風をうけるパラボラ型の帆。そのシルバーメタリックの機体が、ぼくを乗せ、宇宙空間を旅していく姿を想像した。ぼくは金魚ばちをひっくりかえしたみたいな透明なヘルメットと、もこもこと着ぐるみ同然の宇宙服を着て、ボイジャーの操縦ハンドルを握っていた。
そうだった。もっとずっと小さな頃、小説家でも町工場の工員でもなく、ぼくは宇宙飛行士になりたかったんだ。
『それでよ、そのレコードには、ザトウクジラの歌も収録されてるんだって。スゲーな』
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