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「くじらだよ、くじら。ザトウクジラ!」
昼休み、放送室のオフィスチェアに座るぼくの横で、航がでっかい声で叫んでいた。もうさっきからこの調子で、三十回くらい「くじら」と叫んでいた。
朝っぱらから「おれ、くじら座」なんてワケのわからないことを言っていたけれど、今日の航は、頭のなかがクジラの大群であふれかえっているらしい。まあ、航の頭のなかが、何かであふれかえっているのはいつものことなので、取りたててさわぐこともない。
四時間目の終了とともに、お弁当箱をひっつかんで、ダッシュでやってきた放送室。ぼくと航は放送委員で、毎週金曜日の昼は校内放送の当番になっている。ぼくは、放送開始までの短い時間に、リクエストコーナーでかける曲を選んでいた。放送室の扉のまえには、ダンボールで作ったお手製の投票箱が設置してあって、その日の当番がノリと気分で箱のなかから選曲している。みんながリクエストしそうな曲はだいたい放送室にそろっている。
「くじら!」とさわぎたてる航を華麗にスルーしながら、数枚のリクエスト用紙をめくった。一枚の用紙に手を止める。
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