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しばらくすると、上空から雪が舞ってきた。
事前の天気図の見立てよりも、早い天候の崩れだった。本来であれば今頃山小屋に着いている時間なのに。私はそっと後ろを振り返る。
登山歴の浅い、三人の後輩。その顔を見ると、『まだお昼過ぎだし、雪も小降りだし』という楽観的な様子が伺える。山の日暮れは早いことすらも彼らは忘れているのかもしれない。
一ヶ月前に言われた言葉を思い出す。
〝省吾先輩は頭が固いんだから。奈津美さん、内緒で雪山を制覇して、省吾先輩を驚かせましょうよ〟
心の奥底では危険を感じながらも、その誘いに乗ってしまったことを後悔し始めていた。
「あ、何か見えてきましたよ」
メンバーの一人が声を上げる。
白く渦を巻く風の向こうに、一軒の小屋があった。
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