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「奈津美さん、省吾先輩のこと好きだそうじゃないですか。この山に登って自分の実力を認めてほしかったんでしょ。だから里奈の提案にすぐ乗った。雪山の経験もないくせに……。奈津美さんなんて、やっぱり信用しなきゃよかった。俺たちはいいように扱われて、このザマだ」
〝省吾先輩は頭が固いんだから。奈津美さん、内緒で雪山を制覇して、省吾先輩を驚かせましょうよ〟
確かに、そう言ってきたのは里奈ちゃんだった。
里奈ちゃんとそれを話したのは、以前二人で近場の里山に登った時のことだった。省吾先輩のことも、その時打ち明けた。その話の内容を、なんで正樹くんが知っているんだ。
それに、自分から参加を志願したくせに、この言い草。
……こいつ。
ムカつくな。
ふと、先程まで窓ガラスを揺らしていた風が止んでいることに気付いた。
外を見ると、しんと静かだった。舞う雪の量も減っている。漆黒の中、仄かな月明かりが山景を浮かび上がらせている。
「……あ!」
私は窓に近寄る。
そしてガラスに両手を当て、外を凝視した。
「今、上の方でいくつか光が動いてるのが見えた。夜明けが近いから、ご来光を見るために登山者が登ってるんだ。頂上は快晴なんだろうね。今なら雪も小振りだから、あの人たちに追いつけば助けを呼べるかも」
「……え!」
私は慌ててザックからヘッドライトを取り出した。それを頭に取り付け、スイッチを押す。
正樹くんの方を向くと、彼は眩しそうに顔をしかめた。
「距離はそんなに遠くない。……ねえ、皆寝てるからさ、二人で助けを呼びに行こうよ」
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