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ジェローム・シェパードは5歳の時に事故で父を亡くした。
社用で母国アメリカに戻った父ハリー・シェパード。仕事を終え、実家で2日過ごし日本に帰国するはずだった。
前方の車の追突の煽りを受け、横転した大型トラックは周りにいた6台の車に不幸な結果をもたらした。赤々と燃え盛る車の中に閉じ込められたまま亡くなったのは11名の男女たち。その中にハリーはいた。
母、鈴花は2人目の子どもを身ごもっていた。悲報を聞き強いショックを受けた鈴花は、妊娠7ヶ月で早産。子どもは助からず、自分は起き上がることも出来ない…… 葬式どころか渡米さえ出来ない鈴花は、悲しみのあまり長い病床についた。
母と、ハリーとの忘れ形見ジェロームを引き取ったのは実家の宮里家。
両親の猛反対を押し切りハリーと結婚した鈴花だったが、それでも両親は病身の娘を暖かく迎え入れた。やっと取り戻した一人娘。大事にしないわけがない。
ジェロームは、父ハリーによく似た子どもだった。
利発で人見知りをしない彼は鈴花のお気に入り。父は母を「Rin」と呼んでいた。だから幼い彼も母を「りん」と呼んだ。
けれど、小さな彼が邪気なく向けた笑顔を祖父母が受け入れることは無かった。
「りん!」
そう呼んだ後、母のいない所で叩かれた。
「母親を呼び捨てとは何ですか!」
風習が残る田舎の小さな町。それほど外国人との関わりも無い町。ジェロームの前に立ちはだかる世界は、大らかで笑いに溢れた父のいた世界とはあまりにもかけ離れていた。
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