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「何をしてるんですか!」
騒ぎを聞いて担任教師が見たのは、目を抑えて床に座り込んでいるジェロームだった。
「またなの!? あなたたち、職員室に来なさい! ジェローム、保健室に一人で行ける?」
下を向いて頷いた。
「じゃ行ってらっしゃい。先生が迎えに行くよりも早く手当てが終わったら職員室に来なさいね」
また頷く。
優しい声をかけるのをやめてほしかった。松岡先生は男子に人気がある。なのに先生はジェロームにいつも優しい。まさか自分の態度がいじめの原因の一つになっているとは知らない。
ランドセルに中身を戻して廊下に出た。すれ違いざまに小声で言われた。
「贔屓されやがって」
「ゴマすり!」
保健室の手前で足が止まった。
明るい茶色の髪も薄い茶色の瞳も母のお気に入りで、「ダッドにそっくりよ」といつも抱きしめてくれる。けれど外では黒であってほしかった。黒くなりたかった。
女の子たちが時折り送る眼差しも事態を悪くすることはあっても、胸をときめかせることは無かった。
自分の容姿がいやだった。名前がいやだった。自分の存在がいやだった。
愛おしんでくれるのは病気がちの母だけだった。
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