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かつがれたのだとやっと分かって不貞腐れた。
「もっとちゃんとした料理かと思ってました」
「なんだ、朝っぱらから俺にそんなのを要求してたのか?」
「いや、その、そうじゃないですけど……」
「お前のお母さんはよっぽど料理が上手かったんだな。こんなのを食べずに済んだなんて」
「母は料理が得意でした。いつも栄養考えて作ってくれて。俺が夜中勉強してる時も美味い夜食用意してくれ」
声が止まった。何故か急に喉の奥が苦しくなった。頬に手をやった。指を見ると濡れている。
「あれ?」
ぽたぽたと涙が落ちているのに気づかなかった。
「なんで俺……」
この頃泣いてばかりだ、それも河野の前で。頭に手が載ったから見上げた。優しい瞳が自分を見下ろしている。
「お前、ちゃんと泣いたのか? お母さんが亡くなった時。葬式とか」
「葬式、俺、出るの許されなくて……遠くから眺めて……父さんのも母さんのも葬式出てなくて……俺、東京に来たくて病気がちの母さん、俺を心配してついて来てくれて無理して、俺、無理させてばっかで……お前が殺したって……言われ……」
思わず河野は抱きしめていた。
「もういい、いいんだ。お母さんはきっとお前を見てるよ。お前だけを」
絞り出すような苦痛の声に河野は痛みを覚えた。腕の中のジェイの頭が自分の胸で震えている。
葬式にさえ出ていなかった……いや、出ることを許されなかった。怒りさえ覚える、自分のことのように。
「泣いてしまえ。泣かなきゃだめだ、そんなことしまい込んじゃいけない。こうしててやるから」
後はただ、声を上げて泣くジェイを抱きしめていた。
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