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「すみませんでした。ちょっと顔洗ってきます」
泣いても抱きしめてくれる相手がいる。それがこんなにホッとするものだとは思ってもいなかった。
独りで生きていく。そう決めていたから精一杯突っ張って来た。優しさは要らない、他の誰の愛も要らない。母からの愛が最後だと思っていた。けれど今は、まるで閉じこもっていた心にトンネルが開いた様な気がする。泣いたことも、不思議に恥ずかしいと思わなかった。
顔を洗って戻ると河野がコーヒーをくれた。
「どこか行きたいとこあるか?」
「どこかって……」
「どこだっていいんだ、今まで行きたいけど行けなかったってところさ。なんかあるだろう、周りの連中が喋ってるのを聞いていいなって思ったところ」
パッと一瞬顔が輝いたから、どこを言うのかと受け止める気満々だった。ボーリングか、プールか、テニスや卓球、ビリヤード。苦手だけれどカラオケでもいい、我慢してきたところに連れていってやりたい。けれどいつまでたってもジェイは口を開かない。
「どうした、言ってみろ。無理なら無理って言うから」
何度か口を開いては閉じる。
「言えって」
「……課長、きっと笑う」
「笑わないよ! 大丈夫だ、どこだ?」
「……んち」
「ん?」
「遊園地」
河野は固まった。遊園地。ハードルが高すぎる……
「他には?」
ジェイは首を振った。
「いいんです、気にしないでください。課長の行くところについて行きます」
(遊園地かぁ……)
さすがに即答が出来なかった。でも考えたらそうだ。きっと小さい時から行きたかったに違いない。田舎では無理だし、東京に来てからは経済的にも余裕が無く時間も許さなかっただろう……
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