4.意識

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   今は4月の下旬。4月の入社、初給料は5月20日だ。勤務のためのスーツや靴は、細々と貯めてきた貯金を使い果たして買った面接用をそのまま使っている。給料日までの生活費は会社から出た準備金でぎりぎり何とかなる。でもこの買い物は…… ただの贅沢だ。自分には過ぎたものだ。けれど河野との外出にどうしても新しい服が欲しかった。  ジェイはジーンズ1本、選び直した上着1枚、シャツを一枚残して、こっそりと他の物を元の場所に戻した。迷って靴も戻した。これなら昼飯を抜けば、何とか20日までもつだろう。  買い物を終え車に戻った。河野は真っ直ぐにジェイのアパートに向かう。 「俺のアパート、分かるんですか?」 「上司っていうのはそういうのを知っておく必要があるんだよ。何があるか分からないだろう?」  言われれば確かにそうだと思った。  アパートに近づくにつれ、不安になっていく。中に上げなきゃいけないだろうか。礼儀としてはどうぞと言うべきだ。でも河野のマンションとは比べものにならないほど貧相だ…… 「駐車場、無いみたいだな」 「すみません、安いアパートなんです……」 「お前が謝ることじゃないだろう? ここで待ってるよ。早く着替えて来い」  口元が笑っているからホッとして車を下りた。  
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