4.意識

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   中に飛び込んで急いで着替えた。小さな鏡に映してみる。白いデニム生地の上着。中はネイビーの無地のTシャツ。ジーンズはちょっと色あせた感じの細身。 「悪くないよな? ね、母さん、大丈夫だよね? 靴も買えば良かったかなぁ。失敗したかなぁ」  遺影に向かって語りかけた。小さな写真の母はいつも笑いかけてくれる。  質素な組み合わせだが持っているくたびれた服よりうんといい。古い靴に目を瞑って足を突っ込み外に飛び出して階段を駆け下りた。 「お待たせしてすみません!」 「大丈夫だから慌てるな。お前……」  姿を見て声が途切れた。 (組み合わせ、悪かった? もっとお洒落な方が……) 「私服、似合うなぁ! さっぱりしていいじゃないか! いかにも若い! って感じでさ。俺、もうちょっと若く見えるのにすれば良かった」  嬉しいのと、河野を慰めようと思うのと…… 「課長! 大丈夫です、若く見えますよ!」  河野は吹き出した。 「お前、それで慰めてるつもりなの? 参ったな、お前って」  何がいけなかったんだろう? そう考える頭に河野の手が乗った。 「フォロー、ありがとな」 そう笑って言う河野の目にジェイの足元がチラッと見えた。  
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