4.意識

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   高速に乗った。そのスピード感に、飛んでいく周りの景色に目を奪われた。  列車に乗ったのは高校2年の終わり、田舎から出てきたあの日が最後だ。タクシーでさえ河野に乗せられたのが初めてだった。  ただ窓の外をじっと見ていた。こんな日が来るとは思ってもいなかった。ジェイの頭にあったのは、会社に入ってがむしゃらに働いて上の地位に就くことだけだったから。 ――そうすればきっとお祖父様も母さんの墓参りを許してくれる…… 「おい、あれ見えるか?」  指差された方向に、高い丸い物が見えた。 「あれ……」 「ご希望の観覧車だ」  実際に観覧車に乗るとは河野も思っていない。男二人で乗るようなものじゃない。 「すごい! 大きい、コマーシャルで見たまんまだ!」 (ここでこんなにはしゃぐなら向うに着いたらどうなるんだろう) 内心河野は焦っている。子どもなら問題無いが、大の大人だ、それも男性の。 「課長、見て!」  その振り向く顔を見て河野に笑みが浮かんだ。 (ま、いっか。そんなに喜ぶなら何十回でも連れてきてやるよ) 「駐車場、出来れば入り口近くがいいよなぁ」  ぐるぐると駐車場を回ったが近くは空いていない。同じように回っている車が数台ある。 「あ! あそこ!」  見ると、斜め前方に車に乗り込もうとするカップルがいた。音を立ててドアを閉める様子からするとケンカでもして帰るんだろう。 「早く、早く!」  反対側の車が気が付いたらしくてスピードを上げて来る。 「課長!」 「任せとけ」  勢いよくバックしてその車が出た途端に車を突っ込んだ。前をさっきの車が通り過ぎて行った。ドライバーが睨んでいたが、取ったもん勝ちだ。  
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