4.意識

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  「良かったな、ここならたいして歩かないで済む」  期待に胸を膨らませているだろうジェイに河野は体を向けた。 「ジェローム、言っておきたいことがある」  目の前に夢にまで見た遊園地がある。なのになぜ課長は厳しい顔をしているのだろう。 「なんですか、課長」  急に不安になる。さっきここに車を止めてくれと騒ぎすぎたのかもしれない。 「車を下りたら『課長』は無しだ。遊びに来たのに職務名で呼ばれたくない」 「じゃなんて……」  課長は課長だ。それ以外の呼び方なんて思いつきもしない。そうだ! 「『こうのさん』、そう呼べばいいんですね?」  河野は首を横に振った。 「それもお断りだ、しらける」 ――違う? 他に呼び方なんて無い 「蓮」 「はい?」 「『れん』、そう呼べ」 「れん……さん?」 「バカ、違う。蓮だけでいい」 「えぇ!?」 ――それは無理だ、そんなの無理だ! 蓮さんでも厳しいのに! 「だめか」 「無理です、そんなの!」  河野はエンジンをふかした。 「じゃ、帰るか。観覧車も見たし駐車場にも止めた。後は帰るだけだ」  河野は容赦なくハンドルに手をかけた。  横を見ると泣きそうな顔をしたジェイがいる。河野は心を鬼にした。 (今呼ばせなきゃ俺は一生こいつにはただの課長だ) 車を動かし始めた。 「待って!!」  まるで悲鳴のような声。無茶をしている、酷いことを。ここまで来て諦められるわけがない、それは百も承知だ。  けれどここが河野にとって分岐点だ。ジェイと今の関係を変えたい、少しでもそばに寄り添うために。  
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