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「どうした?」
優しい声になった。どうしていつまでも冷たい態度を取れるだろう、こんなに寂しい思いをしてきたジェロームに。
(だからこそお前との距離を縮めたいんだ。ごめんな)
「れ……ん……」
「ん? 聞こえないよ」
「……れん……」
「もう一度」
「れん! これでいいですか!?」
(俺、辛い思いさせてるよな)
きっとジェイの性格なら激しい抵抗があるだろうに。
「いいよ。お前のことは? ずっとジェロームでいいか?」
ジェイは考え込んだ。それでいい、そう言おうとした。
「ジェイって呼んでください、母はそう呼んでくれました」
自分でもそんなことを口走るとは思ってもいなかった。
「いいのか? お母さんが呼んでくれたなら大事な呼び名だろう?」
――優しい人だ……気づいてほしいことを言ってくれた……
「いいんです。課長……蓮にはそう呼んでほしいです」
「そうか。ありがとう、大事な名前を。ジェイ、これは仕事以外の時だけだ。そこはお互いに気をつけよう。いいな?」
ジェイは頷いた。
「じゃ、これ被っとけ」
河野が差し出した野球帽を受け取った。
「お前、きっと騒ぐだろう? だから被っとけ。俺も恥ずかしいから」
「恥ずかしいって……」
「あんまりはしゃぐなよ、ジェイ」
母に呼ばれた時とはまるで違う、鼓動が走る。
「はい、れ……蓮」
二人は車から下りた。
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