1566人が本棚に入れています
本棚に追加
この、体の浮くような無重力感が嫌いだった。
子どもの頃だ。ブランコに乗って後ろから父にやたら強く押され勢いよく揺れるブランコが楽しくて。だが父はあまりに頑張り過ぎた。ふわっと足がブランコの板から浮いた。次の瞬間には地面に叩きつけられて蓮は腕を折った。7歳が近い頃だ。小学校の入学式は三角巾でギプスした腕を吊って記念写真に写った。
それからだめだ、体が浮く感覚が。
「ひっ……!」
それは声になっていない。掴んでいる安全バーがとても安全を保障してくれているとは思えない。隣を見る余裕もないが、隣から聞こえてくるのは明らかに悲鳴ではなかった。
「蓮! 蓮! すごい、ほら! 手を上げて!」
冗談じゃない、手を放したら死んでしまう。そんなことくらい分からないのか?
でも声を出す余裕などなかった。
結局死ぬことも無く乗降口に降り立って、蓮は足がガクガクしているのを自覚していた。
「蓮、もう一度……」
振り返ったジェイが見た蓮の顔は真っ青で、一瞬で頭から全てのことが飛んだ。
「蓮! 具合悪いんでしょう!? どこかで休まないと!」
「い、いや、大丈夫だ」
「大丈夫なんて言葉にホントのことなんて欠片も無いんだ!」
青い顔に母が重なった。
「待ってて! 休める所探してくるから!」
止めるのも聞かずに走っていくジェイの後姿から苦しみが伝わってくる。
「ごめんな、ジェイ……」
出来ればもう一度乗せてやりたいとは思う。でも、自分は無理だ。
最初のコメントを投稿しよう!