5.ジェイと蓮

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   駆け戻って来たジェイの手にはペットボトルが握られていた。 「水です、飲んで。少しは落ち着くから。向うに座れるところがあります。そこまで俺の肩に掴まって下さい」 「ジェイ、俺はもう大丈夫だ。本当だ、誤魔化してない。水が欲しかったから助かったよ」  確かに喉がカラカラだ。冷たい水は有難くてゴクゴクと飲んだ。 「だからお前、乗って来い。俺はここで見てるから」 「一緒じゃなきゃ嫌です。俺だけ楽しむなんて出来ないです」 「俺さ、ダメなんだよ、これ。乗れないんだ」 「乗れないって……?」  はっきり言わないと遠慮していると思うだろう。蓮は思い切って言った。 「俺、怖いんだよ、こういう乗り物」 「え? 怖い?」  一瞬ホケっとした顔をしたジェイの顔が…… (クソっ! なんて顔するんだよ!) あの唇の感触が戻ってくる。 「あの、本当に怖いんですか?」 「ああ。だからお前一人で」 「やめときます! そうかぁ、怖いものがあるんだ」 「なんだよ、それ」 「怖いもん無しかと思ってましたから。課長、いえ、えと、蓮はそんな風に見えないから」  下を向いて笑いを堪えているのが分かる。 「あのな! これだけだからな、怖いのは! 誰にも言うなよ、示しがつかなくなる」  その言葉に、弾かれたようにジェイは笑い出した。 「笑うな!」 「は、はい……無理っ!」  笑いが止まらない。遊園地に来るまでのあれこれがみんな消えてしまった。やっと収まりかけても膨れている蓮を見てまた笑い始めてしまう。 「お前には怖いのものないのか!?」 「ありま、せんよ、蓮みたいな……」  終いには蓮も笑い始めた。  
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