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高校3年からの転校。けれど何もトラブルは生まれなかった。それほど人目を引かない。外国人はそこかしこに溢れている。単純に羨ましがられた。
「モテるだろう!」
「あの、おつき合いしてください」
誰も疎まない。夢のような毎日。必要以上に絡みあわず、互いに距離感を持った浅い友人関係はジェイに解放感をもたらした。
母に勧められて入ったバスケット部は性に合っていた。初めてのクラブ活動。目立とうが目立つまいがそんなことがたいして問題になることも無い。
「筋がいい」
「本当に初めて?」
顧問や先輩、同級生の感嘆の声に高揚感を覚えた。全身を使って汗を流す楽しさに溺れていくのは早かった。
「ハリーはバスケの選手だったのよ。あなたも今の内に楽しんで。すぐに受験シーズンになってしまうから」
体力を使い果たして帰ってくると勉強に打ち込んだ。受験に落ちるわけには行かない、母を喜ばせたい。
夜中。勉強中、疲れきって小さなテーブルに突っ伏していると、ふぁさりと毛布がかけられた。気がついて振り向くと痩せた母の背中。
東京の暮らしは、援助のない母子家庭には厳しかった。ハリーに愛されてあまり世の中を知らずにきた母は、ジェイには告げずに必死に働いていた。
夢から覚めるようにジェイは現実を見た。母に仕事を辞めてくれと頼んだ。公立でも多少の奨学金は出る。手続きは全部一人でやった。バスケはやめてバイトもすぐに決めた。母には代えられない。
勉強なら何とかなる。互いに相手を思うがゆえに、庇い合うことに必死な母子だった。
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