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「お待たせ」
「あっ、お疲れさまです」
あっという間の30分だった。
課題を広げてみたけれど、先輩の手の感触を、つい思い出してしまって、それどころではなかった。
あんな風に頭を撫でられるなんて子供のとき以来じゃないだろうか。
「飯食っていい?」
「はい」
「松永さんは? 何か食べる?」
「私はいいです」
ほんとはちょっとお腹が空いてきているけれど。
「えー、俺だけ食ってるのって、なんか嫌じゃん。ポテトとかつままない?」
子供が拗ねるみたいに唇を尖らせて、サイドメニューのページを私に見せてくる。
「好きなの頼んでいいよ。おすすめはポテトだけど」
「ポテト食べたいんですね」
「バレたか。でもうちのポテト、量が多いんだよ。だからちょっと食べて?」
「そういうことなら、いただきます」
「うん」
今度は嬉しそうに鼻唄を歌いながらベルを押して店員を呼ぶ。
先輩の笑顔につられて私の頬も緩んだ。
「それって課題だよね?」
注文を終えた先輩が、私のノートを指して言う。
「もしかして俺、邪魔しちゃった?」
「いえ、そんなことないです」
「ほんとに? 迷惑だったらちゃんと言って。食べ終わったら帰るから」
「大丈夫です。全然やる気なくて進んでないし」
本当に一文字も書けていない。
まだ〆切までは余裕があるから、とりあえず横に置いておこう。
「じゃあ俺も朝まで一緒にいていい?」
「えっ!?」
「だって、まだ雪降ってるじゃん。こんな中帰りたくないもん」
たしかに、その気持ちはよくわかる。
せめて明るくなるまでは動きたくないよね。
「それにさ、松永さんとゆっくり話してみたかったんだよね」
「私と、ですか?」
「うん」
それってどういう意味ですか?
窓の外を眺めている先輩の横顔からは何も読み取れない。
なのに私の心臓は何かを期待するように跳ねている。
いやいやいや。
どうした、自分。
さっきからおかしい。
先輩の何気ない一言や仕草に、いちいち体が反応している。
これじゃあ、まるで先輩のことが好きみたいじゃないか。
そんな考えに至って焦る。
今までそんな風に見たことなんてないのに。
「あっ、ポテト来たよ。食べよ、食べよ」
「……いただきます」
熱々のポテトは、先輩の言う通り山盛りで。
なのに、このポテトがずっとなくならなければいいのに、だなんて思ってしまった私はきっとどうかしている。
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