彼女がアイスクリームになった

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彼女がアイスクリームになった 私は北極圏の国に暮らしたいとママに言った だめよ とママは言った わかった と私 「代わりに 冷凍庫の片隅を私にちょうだい」 それから彼女はそこにいる 私はカナダの大使館で働けることになった 彼女がアイスクリームになったのは もう思い出せないくらい昔の話だ うんと寒くて人のいないところでは 人の代わりに雪が喋るという 「私を食べてくれればよかったのよ」と アイスクリームになった彼女が言う 「いやよ」 私は雪原に 彼女と並んで寝そべった 顔を横に向ければ視界の端は 水平線のよう 白い線 故郷の村の夏は暑くて 溶けてしまわないか心配だった 何度も冷蔵庫を開いては閉めた 彼女がアイスクリームになる前は 冬に積もった大雪の上 走る彼女が心配だった 視界の端から消えてしまって 凍っていないか心配だった あれがあの村の初雪だった その後一度も積もらなかった 私が北極圏の国に暮らしたいと言ったこと ママはもう覚えていない 冬には帰っておいでよと 言うけど私は帰らない 雪が降る しんしんと 私もアイスクリームになった
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