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「良かったー、目覚めたら僕たち、時間の違う世界に行っちゃうんじゃないかって、ちょっとビクビクしてたよ」
冬依は、朝食のトーストをかじりながら、不吉なことを言う。
さすがに手の込んだ料理を作る気力は誰にもなかったのだが、腹だけは減る。
空腹だと騒ぐ年少組を黙らせるために、バタートーストを山盛り焼いた。
冬依は2枚目だが、秋哉は5枚目だ。
「パンって食った気がしねーんだよな」
文句を言いながらも口だけは止めない秋哉を尻目に、冬依は心底恐ろしそうに肩を震わせる。
「みんなであの映画を見た後に、体が入れ替わっちゃったからね。元の世界に戻るのに、何年もかかるだなんてことになったら、どうしようかと心配してたんだ」
でも3枚目のトーストに手を伸ばしたから、きっと冬依も大丈夫だ。
今回、この入れ替わりのきっかけになったのは、有名な一本の映画しか思い当たらなかった。
夕べリビングに流しっぱなしにして、みんなで見ていたアニメ映画。
その映画はやはり入れ替わり物で、体が入れ替わったふたりのお互いの時間軸が違う、パラレルワールドの接触が物語の核心となっていた。
だが、今回の来生家の入れ替わりには、そんなややこしい要因はなかったようだ。
外の様子も隣近所も、テレビの中のニュースも、いつもと変わらない、来生家がよく知っている平凡な世界を映し出していた。
とりあえずホッと息をついて、元気に朝ご飯も食べられるというものだ。
でも暖めたミルクを飲みながら、冬依はふと漏らす。
「まあ、たとえここが元とは違う世界でも、みんな一緒なら、怖いものなんてないけどね」
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