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「落ち着け秋哉。大丈夫だ」
鈴音の姿をした春一が、固まってしまっている秋哉の肩をポンポンと叩いてやる。
本当なら頭を撫でてやりたいところだが、身長が足りないので仕方がない。
それに、いくら中身は秋哉でも、自分自身の姿をしている相手を慰めるのも、なんだか変な気分がする。
そして春一は、
『そうか、普段の鈴音からは、俺はこんな風に見えてるのか』
冷静なのか現実逃避なのか、ぼんやり考えてしまう。
正直なところ、目の前の自分はデカくてゴツくて、妙な威圧感さえある。
『絶対、鈴音には優しくしよう。優しく優しくしよう。じゃないと、怖がらせちまう』
……自分の体ながらドン引きだ。
そこへ、
「さっきからうるせぇんだよ。静かにしやがれ!」
ドアを蹴り飛ばさんばかりの乱暴さで、部屋から出てきたのは冬依。
パジャマの上着の裾から腕を突っ込んで腹をポリポリと掻いて、目もまだよく開いていない。
「冬――、じゃないな。お前は誰だ?」
真っ先にそう聞いたのは春一だが、姿は鈴音だ。
「あ゛!? 鈴音、てめぇなにナマ言って――」
「ナツキだ!」
クイズにでも答えるように、見えないボタンを押して叫ぶのが春一、の姿をした秋哉。
勢いよく振り下ろした腕がブンと風を切る。
「はぁ? 春こそ寝ぼけてんのかよ?」
気だるげに片目をこじ開け、そして自分の体の異変に気がついた。
「なんだ、これ……」
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