第1章 霊の後輩誕生 

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「うそも、くそもない。それがおまえの顔だよ。いいかあ、生きていたものはな、死んだときの姿のままで、この世をさまようわけよ。おまえの死体に近づいて、よく見てみろ。顔中から夥しい血を流して、皮も肉も骨が見えるほど抉れている。それが死後の世界でのおまえの新しい門出を祝う、凛々しい姿ってわけだ」  恵人は、男の話を耳にしながら、まさか嘘に違いない、と思った。姉と一緒にテレビで見たハリウッド映画、ゴーストの主人公の恋人の幽霊は別にイケメンだとは思わなかったが、それなりの顔をしていた。  先輩幽霊が、男が言ったことが本当なのか、確かめようと校庭にふわりと降りて、死体の顔を恐々と覗いた。 「あっ」  思わず声を漏らしたが、お尻の方は大丈夫だった。尿は少しちびったが、便は漏れてはいなかった。たぶん、そうだ。いや、間違いない。生前に一度だけ、トイレに間に合わず途中でパンツを汚したときは、肛門に暖かいものを感じだ。いまはそれはなかった。  それでも、自殺することだけを考えていて、死ぬ前に排便をしなかったのがまずかったのか、また屁が続けて出そうだった。    
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