217人が本棚に入れています
本棚に追加
/791ページ
恵人はその姿に怯えて、全身を震わせた。この場から直ぐにでも逃げ出したかった。が足がすくんで、金縛りにあったように、その場に固まった。
「いいか、どんな理由があったかは知らんが、死ぬということがどういうことかわかっているのか。生きることから逃げて、死後の世界なら楽でもできると思ったのか。おまえの親がどんなに嘆き悲しんでいるか、一生死ぬまで 、おまえのことを思い出して」
「りょ、両親は、いません。ふ、2人とも、亡くなりました。姉も死……弟が、1人いるだけです。あ、あの、もう、いいですか? こ、これから両親を、探しにいきますので」
恵人はひどく怯えながらも 、子供の大嫌いな大人の長くなりそうな説教から耳を塞ぐかのように、話の途中に口を挟んだ。
「いいか、おまえの両親に、天国で会えると思ったら、おお間違いだ」
「なぜです? 天国にいけば、みんなに会えるんじゃないのですか?」
恵人は、沢口の前から早く立ち去りたい気持ちを顔にぶら下げて、訊き返した。
最初のコメントを投稿しよう!