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【恵】
「僕には、よくわかりません」
最愛の大切な家族を失った上に、世間の冷たい風当たりを受けてきて、猜疑心が強くなった恵人は、沢口の言葉の一字一句に疑念を抱いていた。
「そうか君は、まだ半中学生だったな」
「何ですか? その半中学生というのは」
「たしか、おまえまだ中学校に入っていないだろう。明日が中学校入学式だよな。だから歳は中学生の年齢だが、まだ中学校に入学していない君は、半中学生だ」
「……」
恵人は言い返せず、不満の顔で押し黙った。
説教のような長話を終えると、沢口は悲しそうなままの眼で亡骸を見つめていた。が、顔を合わせたくない、ぞっとする化け物顔をまたすぐに向けてきた。
「しかし、どうしてまた、中学校の入学式の前日に、自殺なんかしたんだ?」
いままでの皮肉を混ぜた口調ではなく、重い口調で訊いてきた。
恵人は、応えたくないという顔で沈黙した。
「いいか、ここで生きていたときのように、振る舞う必要なんか、ないんだぞ。ここで全部、吐き出してしまえ。そうすれば、気持ちがすっきりするぞ」
これも詐欺師、騙し屋の手口なのか、今度はいくぶん明るい口調に切り替えて訊いてきた。
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