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恵人はその顔を見て、ひどく不安を感じた。ここから、どこか人目につかないところに連れていって、美少年の自分の若い体を美味しくいただこうと企んでいるかもしれない、と、そら恐ろしい不安が頭に降りかかった。
自分が既に死んでいることを、実体のない霊になっていることをすっかり忘れていた。付け加えると、もう美少年ではないことも、理解できていなかった。まだ美少年のままの気持ちでいた。見事な化け物に、イメチェンしていることをすっかり忘 れていた。
「え? どこに行くんですか?」
「ついてくれば、わかる」
口を吐くと、沢口がニヤリと笑った。
──やはり間違いない。嘘八百にしか聞こえない説教話をあれこれと並べた後に、変に途中から優し気な口調に変えたり、安心させて騙さそうとしているようだが、やっぱり僕を食うつもりなんだ。
恵人は怯えが増した眼で、沢口の様子を窺った。
──きっと背中には、長さが1メールほどの出刃包丁と、ステーキソースなどの美味しく食べるための調味料に、スパイシーな香辛料なんかも隠し持っているに違いない。
自分が高級牛肉や豚肉になった気分だった。隙をみて逃げ出すことを考えた。
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