217人が本棚に入れています
本棚に追加
【恵】
あっという間に小学校が小さくなり、見慣れた施設が瞳に映った。
「ここは」
「おまえが出てきた施設だ。俺はたまたまこの施設を通りかかったとき、死相が浮かんでいるおまえの姿を見て、学校まで後をつけたんだ」
沢口が連れてきた場所は、自分と弟の恵吾が暮らしている古びた児童養護施設だった。小学3年生の弟は自分の身の上に負い目を感じているようで、施設にきて口数が少なくなり、学校から帰ると、いつも側から離れなかった。
今日からは、1人になる。
恵人は、弟のことが急に心配になった。
「あの子は、おまえに似ているな」
沢口が、施設の窓から垣間見える恵吾を指差した。
今日は日曜日だ。学校は休みなので、普段の休みの日はまだ寝ている時間なのだが、恵吾は、自分がいないことに気づいて、探しているようだった。
最初のコメントを投稿しよう!