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「僕の弟です」
声を絞り出すようにして、答えた。
自分が死んだことを知らずに、探している弟の姿を見ているのが辛かった。胸が詰まりそうだった。
「そうか。おまえの弟は、自分のたった一人の兄弟が自殺したと聞いたら、これからどうするだろうな」
「……」
恵人には答えようがなかった。
自殺するまでは、自分のこと以外は、何も考えられなかった。が、こうして自殺をして初めて周りのことを見渡せるようになると、気の小さい弟のことがすごく気にかかった。
沢口の言葉が全身に鋭く突き刺さり、恵人には返答できるような言葉など持ち合わせていなかった。
「いいか、たった1人の兄弟がいなくなるというのは。おまえの辛さ苦しさよりも何倍も大きいんだぞ。おまえが、どんなイジメに遭っていたかは知らんが、弟は、もっと大きな苦しみを背負っていくことになる。それをあの小さい体に、おまえは負わせてしまった」
恵人は、その言葉に打ちのめされた。
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