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「恵人、おまえ、出身は東京じゃないんだろう。おまえの故郷はどこだ?」
初めて出会ったときの皮肉を混ぜたような口調などではなく、施設で話していたときと同じような、どこか重い口調で訊いてきた。
「え? 僕 のふるさと?」
恵人は、沢口の予想だにしなかった言葉に、声のトーンが少し外れた声で聞き返した。
「ああ、そうだ。おまえのふるさとは何処だ?」
「愛知県の〇〇です。伊良湖岬から西側の沿岸に沿った、遠州灘の海に面した町です」
普段着の声に戻して応じた。
「 よし、いまからそこに行くぞ」
「え? いまからですか?」
またトーンが少し外れた声で応じた。
「ああそうだ。あそこは、 おまえの想像どおりだったら、震災で亡くなった霊が沢山いるはずだからな。ひょっとしたら、死んだおまえの親戚とか、友人にも会えるかもしれんぞ」
また返事も聞かずに右腕を掴んだ沢口は、急降下すると横浜の方角に向かって海岸瀬を舐めるように飛んだ。その途中だった。なぜか東京湾を航行中の巡視船の頭上を並走でもするようにしばらく速度を落として飛ぶと、それから方向転換をするや、一気にスピードを上げてふるさとを目指した。
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