第1章 霊の後輩誕生 

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 そう、あの福島原発事故の教訓は、ここでは何の役にも立たなかったのだ。  浜岡原発は廃炉を決定したものの、政府は廃炉作業を急ぐことよりも、原発の再稼働に熱心だ。新基準をクリアをすれば大丈夫と衣替えをして、また安全神話が復活した。その新安全神話で事故が起きれば、福島原発と同じように誰も責任を取らずに、また想定外で逃げるのだろう。        その再稼働ありきの、廃炉の政策を後回しにした政府のツケが、福島原発事故を超える被災地域、被災者を生み出してしまった。  避難区域は市域だけでも9都市に上り、被災難民は、鳥取、島根、福井、佐賀、高知、徳島県の人口をも超える、なんと90万人余にも上っていた。  眼を覆いたくなる悲惨な光景が延々と続いた先だった。その延長線上に懐かしい山野と町が見えてきた。 「あそこが、僕が生まれた町です」  恵人は、ほとんどの家が地震と津波で倒壊、消失してしまった沿岸の町を指差した。  生まれ育った、懐かしいふるさと。が、懐かしいという想いを頭から直ぐに蹴散らし、悲しみだけを蘇らせた。        
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