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「恵人、どうだ? 誰か、知り合い は見かけたか?」
嗚咽を堪えながら大粒の涙を頬に流し、悲しみに沈む気持ちを察したかのように、沢口が初めて穏やかな声で訊いてきた。
恵人は頭を擡げて涙を拭い、その問いに応えるように周囲を見渡した。
通行人に混ざって霊がさまよっているのが見えるが、その中に知り合いというほどの人間や霊はいなかった。見覚えのあるような顔をした人もいたが、溺死したのだろうか、全身が酷く傷んでいて、はっきりとはわからなかった。
が、その光景を見て、すこし元気が湧いた。
──あの津波で亡くなった霊たちが、まだここにいるということは、ひょっとしたら、 父や母もいるかもしれない。
一筋の光明が、恵人の心に芽生えた。
が、それと同時に不安を覚えた。父と母が見つかっても、見分けがつないぐらいに、自分と同じような、ひどい姿になっていないだろうか?
それでも父と母には変わりはない。会いたくてしょうがなかった。恋しさが増してきた。会いたいとの思いが募った。出会えることをひたすら祈った。
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