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「恵人。さっき見かけた霊は、あの津波で亡くなった人間ではない。たぶん震災で大切な人でも亡くして、この世に悲観して自殺したのだろう。だが死んでも、会いたい人とは、出会えない。気の毒だが、それが霊界での厳しい現実なのだ。だから自殺なんてのはな、絶対にするもんじゃない。それと、ここで気を付けないといけないのは、悪霊たちだ」
自殺したことを、改めて咎めるような強い口調で喋ると、沢口は注意を払うように鋭い目で周りを見渡していた。
「悪霊?」
恵人はその言葉に、体をビクッと反応させて聞き返し た。
「ああ。悪魔の力で地獄行きを逃れた悪党たちだ。そいつらが悪霊となって獲物を探して 徘徊している 。奴らに捕まらないよう、気をつけないとな」
恵人は恐ろしくなって言葉を返すことができず、背筋から冷水をかけられたような体が冷たくなっていくのを感じた。
すぐさま怯えた眼で周りを見渡した。
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