第3章 重い十字架

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第3章 重い十字架

【沢】  恵人が肩の荷を下ろすように重い口を開いて、自分の身の上を話してくれた。 東海地方を襲った南海トラフ超巨大地震が引き起こした大津波で、恵人の家族と親戚は全滅した。両親を亡くした恵人と弟の恵吾は、当時15歳の姉の綾香に連れられ被災地を彷徨っているときに、取材にきていた上杉と名乗るフリーライターの若い男に助けられ、男の紹介で東京の児童養護施設に引き取られた。  だが3人にとって、施設の生活は幸せなものではなかった。特に、思春期の心が不安定な年頃の綾香にとっては。後で知ったが、施設にいれば平穏な暮らしができるということでもないようだ。運よく良い施設に当たればいいが、残念だが、中には性暴力やいじめがある施設も意外に多いということらしい。  綾香は「3人で暮らせるように、お姉ちゃん、頑張るから」と言って施設を飛び出し、高校に行かずに働いた。  ところが、恵吾が大病を患い、綾香は高額の治療費を稼ぐため、仕方なくクラブでも働くようになった。だがそのクラブは、AV業者たちがたむろする店だった。綾香の美貌に目を付けた悪魔、AV男たちは、獲物を逃しはしなかった。綾香は、大金が直ぐに手に入る、と言葉巧みに騙されて、AVの生き地獄に呑みこまれてしまった。      
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