第3章 重い十字架

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第3章 重い十字架

 綾香は治療室のベッドで、短い命を閉じた。  沢口の脳裏に、命の炎が消えゆく最後の一瞬まで、亡くなった両親の代わりに、自分の人生を捨ててまで、小さな弟たちを守ろうとした姉の姿が、体を犠牲にして守ろうとした綾香の哀れな姿が、瞼に浮かんだ。  彼女の慟哭と悲痛な叫びが、全身に突き刺さった。  卑劣なAVを容認している、この国の政治家、法曹界、表現の自由だと嘯く偽善者たちへの激しい怒りが全身に沸騰して絶叫したかった。  こみ上げる憤怒の心、荒ぶる心を、拳をぐっと握り、息を呑み込んで落ち着かせると、涙目を恵吾に向けている恵人の顔を、悲しい眼で見つめた。  恵人がいじめられた理由を知り、切なかった。そうとわかっていれば、なんとしてでも自殺を防ぎたかった。  だが、たとえ理由を知ったとしても、霊の身では助けることは不可能だ。  恵人の自殺を防げなかった無力感が、背中を叩いて心を揺さぶった。     
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