第3章 重い十字架

1/1
前へ
/791ページ
次へ

第3章 重い十字架

【沢】 「そうか……そんなことが、あったのか」  悲劇の顛末を知った沢口は、喉から声を絞り出すと、いまにも涙を零しそうにしている恵人の顔から瞳を逸らし、泣き崩れている恵吾を沈痛な眼で見つめた。 「ぼ、僕は……お、お姉ちゃんの、仇を撃ちたいです。生きていたときは、子供の僕にはなにもできなかったけど、僕も沢口さんみたいな力を手にしたら、姉ちゃんを殺した悪い奴らをやっつけられる。そうでしょう? 沢口さん」 恵人の顔からは、初めて会ったときの怯えた色はすっかり消え失せて、哀願するような顔を向けていた。 「それはどうかな。おまえの気持ちは、わかるが、、復讐するのは、諦めろ」  沢口は、まだAV男たちへの激しい怒りで、ざわめいている心を閉じ込めて、少し間を置き平静をつくった声で諭すように話聞かせた。 「どうしてですか? どうして諦めなければならないんですか? 僕はいやです。絶対に諦めません」 「復讐してどうする? そんなことしても、お姉さんは生き返らないぞ」 「お姉ちゃんのアパートに、弟と泊まったとき見たんです。お姉ちゃんが、泣いているのを。お姉ちゃん、僕に気付いて、僕たちのために、お姉ゃん頑張るからって、、そ、そんな、そんなお姉ちゃんを、僕は、僕は、お姉ちゃんの仇を、必ず取ります」    沢口は言葉を返さず、恵人の顔を悲しい眼でじっと見つめた。            
/791ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加