第3章 重い十字架

1/1
前へ
/791ページ
次へ

第3章 重い十字架

「恵人、そこにいろ」  言いつけると、床に伏して泣いている恵吾の側に 、ふわりと降り立った。  たった1人ぼっちになってしまった子どもの哀れな姿を眼にして、ひどく胸が痛んだ。堪らず眼を逸らし、古ぼけた粗末な勉強机に置いてある写真を見つめた。  写真の中の3人は、仲良く微笑んではいるものの、子供ながらも、両親を失いこれからどうやって生きていけばいいのか、という不安を隠せない表情を、その純真な瞳の中から垣間見た。姉の綾香は、それを強く訴えていた。  沢口は瞬きも忘れて、写真を見つめていた。綾香への哀れみと慈しみを入り混ぜた眼でしばらくの間見つめた後、泣き続ける恵吾の背に近づき、体を慰め労わるように思い切り抱きしめた。  すると、家族全員を失った悲傷な心と助けを乞う悲痛な声が伝わってきた。恵吾も恵人と同じように、いじめられていた。  最悪の事態が頭に押し寄せ、胸が詰まりそうになった。このままでは恵人と同じように自殺するかもしれない。それを防がねば。       
/791ページ

最初のコメントを投稿しよう!

217人が本棚に入れています
本棚に追加