第3章 重い十字架

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第3章 重い十字架

 そう腹を決めて恵吾の体から離れると、驚いた眼で見つめている恵人の正面に浮いた。 「恵人、おまえの弟は、おまえと同じように、自殺するかもしれないぞ」 「えっ?」 「恵吾は。おまえと同じように、学校でいじめら れている。いじめられて帰ってもな、おまえがいたから恵吾は必死に耐えていた。その弟の心をおまえは奪い取ってしまった。おまえが、弟を追い詰めた。わかるか恵人。おまえが恵吾に、自殺したいという気持ちを持たせてしまったのだ」  その衝撃の言葉を耳にした恵人は、直ぐに恵吾に眼を向けた。そして、見る見るうちに震えだし、いまにも声を上げて泣き出しそうな顔になった。 「いいか、おまえの気持ちがわからないでもない。だが、おまえは1人じゃない。大事な弟がいる。おまえを頼りにしていた弟がいる。それなのに、おまえは恵吾に重い十字架を負わせてしまった。懸命に生きていこうとした心を、恵吾から奪い取った。おまえは取り返しのつかないことをしちまったんだよ」  重い口調で言葉を続けると、これからどうするか思考を巡らせた沢口は、恵人に眼をやった。  恵吾を見つめたまま聞いていた恵人は話の途中から堰を切ったように傷だらけの顔をくしゃくしゃにして、涙をぼろぼろと流していた。そのありさまは、そのまま浮いていられず、床に落ちて泣き崩れてしまいそうだった。
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