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青山ゆかり。
俺が好きな女の名前だ。
彼女とは中学時代からの友達で、今でもたびたび会って話すくらいには仲がいい。
しかし、気持ちの問題はともかくとして、二十歳を過ぎてから俺と彼女の立場は昔のように同列ではなくなってしまっていた。
就職戦争とやらに敗北した俺はしがない派遣会社のバイトで食い扶持を稼いでいる。反面、しっかり者の彼女は大手企業のOL。
しかし彼女は、そんな格差など気にせずに俺と話してくれていたのだ。
しかし、先日彼女から聞かされた言葉は、俺の心を奈落の底へと突き落とした。
「私、結婚を前提に付き合ってる人がいるんだ」
いつものようにお酒など飲みながら、彼女は赤い顔でそう話した。
聞くところによれば、その相手は同じ会社のエリートらしく、出世コースまっしぐらのイケメンだという。
その後、彼女は俺に一時間近くものろけ話を聞かせてくれたが、もはや俺には何も聞こえていなかった。
やっぱり、やっぱり俺みたいな底辺は、そもそも恋愛対象になっていなかったのだ。
俺が下心を抱いていることなど気づかず、彼女は俺のことをただの友達として付き合っていたんだ。
――弄ばれた。
俺は、すぐにそう感じた。
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