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「うぐっ……!」
男が、くぐもった声を上げる。
俺はすかさず男の身体に蹴りを放つ。
男はよろけて、数歩進んだところで転倒する。
いくら瀕死でも相手の間合いにいれば何をされるか分からない。
どうせもう、ロクに動くこともできないのだ。
少し離れたところまで蹴り飛ばしてしまえば、俺に危害を加えてくることは無い。
その証拠に、男は這いずるようにこちらに向き直って憎悪の視線を送ってくるも、俺のところまではたどり着けない。
やがてその眼は光を失い、淀んでいく。
あっけなく、あまりにあっけなく、目の前で一つの命が散った。
フフフ、これで完璧だ。
これで……ん?
「……誰かいるのか!?」
俺の背後に、ただならぬ気配を感じる。
見れば、裸の女が一人デジカメを片手に悠々とパソコンを操作していた。
「あら、ようやく気づいたのね。おマヌケな殺人者さん」
長い黒髪を揺らしながら、女がせせら笑う。
ブラックダイアモンドのように深淵で強い光を放つ瞳。
女性らしく艶めかしい曲線を描く、スタイルの良い白い肌。
そして、強い意志を感じさせる真っ赤な唇。
今置かれている状況を忘れてしまいそうなほどに、その女は美しかった。
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