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脇に置いてある荷物にふと目をやると、鞄にてんとう虫のピンバッジが付いているのに気付いた。よく見ればペットボトルカバーの柄も、今座ったレジャーシートの柄もてんとう虫だ。
女子の間で流行っているキャラクターだろうかと思っていたところに、彼女が「ねぇ」と話し掛けてきた。
「わたし菅原美香子。あなたは?」
「八束です」
「下の名前」
「……亜留人」
「へぇ! アルトくんかぁ。お洒落な名前だね」
「……別に」
つい顔を背けた。母が俺に声楽の道を進ませたいと付けた名前だ。好きになれるわけがなかった。
「そうかな。かっこいいと思うけどな」
彼女――菅原さんが呟いたが何も答えなかった。菅原さんのほうもそれ以上突っ込んでくることはなく、こほん、とひとつ咳払いをして一礼した。
「本日はお越しくださいましてありがとうございます。どうぞ心行くまでお楽しみください」
仰々しい前口上を述べてから上げた顔に一度笑みを浮かべた後、静かに歌い始める。
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