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 大学進学を機に一人暮らしを始めたアパートは、大きな川の川沿いに建っている。川のこちらは主に住宅地、あちらは商業地域になっていて、日が落ちると対岸のネオンがなかなか綺麗だ。それで俺はよくベランダに出て、川の向こうを眺めてぼーっとしている。  今日もまた風呂上がりにふらりとベランダに出て、そよそよと吹く夜風で火照りを冷ましていた。  しばらく涼んでそろそろ中に入ろうかと思った時、風に乗って歌声が聞こえてきた。はっきりとは聞き取れないが、どうやらこれは、 (演歌?) 女性がひとりで演歌を歌っているらしい。  酔っ払いがご機嫌に歌っているのかと思ったがどうやらそうでもない。音程やリズムもずれていないし、同じフレーズを何回も繰り返したりしている。  川辺は整備されていて遊歩道やベンチもあったはずだ。誰かがそこで歌の練習をしているのかもしれない。  無意識のうちに、眉間に皺が寄っていた。
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