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 何事もなかったように立ち去ろうとした時、 「おーい! おにーさーん!」 腹式呼吸のよく張る声に呼ばれた。  一応辺りを見てみるが生憎誰もいない。渋々さっきまで見ていた位置に目を戻すと、何がそんなに嬉しいのかと思うほどにこにこと笑いながら、彼女が大きく手を振っていた。もちろん俺に向けて。 「ねぇ! ちょっと下りてこない?」 「いや、俺は……」 「えー何? 聞こえない! いいからちょっと来て来て!」  両手で「来て来て」のジェスチャーを送ってくる。これ以上大声で呼ばれるのも嫌だし、仕方なく河川敷に下りる階段を下り始めた。
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