桃源郷

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男に、何事か、文句をつけている。 なるほど。こんな姿じゃあ、気味悪がられても仕方ないか。 それほどまでに、私は薄汚れて、不法侵入者以外の何者でもない。 私は、慌ててまた別のところへと逃げ込んだ。 世知辛い世の中だ。少しくらい寒さをしのいでもいいだろう。 私は、また程よく北風の当たらない場所を見つけて移動した。 そこは、薄暗い狭い場所だった。 ああ、なんだろう。 これは、懐かしい臭いだ。 皮の臭いだ。 私が元住んでいた家の玄関もこんな臭いがしていたな。 心なしか、少し暖かい。 私は、眠りに落ちた。 そして、しばらくして、乱暴に体ごと投げ出されて目がさめた。 何が起こったんだろう。 私は、その隙間からのろのろと這い出し、最後の力を振り絞って、危険を察知してその場から離れることにした。 「はぁ~疲れたあ。」 すぐそばから、大きな声がして、私はぎょっとして、物陰に隠れた。 暗くて、その声を発した者の姿は見えない。 私が息を潜めていると、急にあたりが明るくなった。 頭上を見ると、真っ赤な太陽が二つも輝いていた。 太陽とは、こんな形だっただろうか。 楕円形の太陽が、私を照らしたかと思うと、だんだんと暖かくなってきた。 そうか、ここは桃源郷なのだ。     
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